冬になるとどうも気分がすぐれない、という人は少なくありません。
これは日本に限らず、アメリカやイギリスでは”Winter blues(ウインターブルー)”と呼ばれ、やはり多くの人が冬になると憂うつな気分になっています。
これが単なる一過性のものであれば問題はないのですが、実際には髪の毛にも何らかの悪影響を及ぼしている可能性があります。
そこで、冬季うつとは何か、なぜ髪トラブルの原因となるのか、解説しましょう。
冬季うつとは
冬季うつは「季節性情動障害(SAD)」といわれ、季節によって精神が落ち込んでしまう症状を指します。
アメリカで大規模な調査を行なったところ、州によっては10%近くこの障害を持った人がいることがわかっています。
冬季うつの代表的な症状
冬季うつの症状は人によって違うものの、大体以下のような特徴があります。
・10月~11月頃から現われ、3月頃から回復する
・特に雨や雪など天気が悪い時に起こりやすい
・気分がふさぎがちになる
・イライラ感が強くなる
・何もしたくなくなる
・集中力が落ちる
・食欲がなくなる
・過食しやすくなる(特に炭水化物)
・吐き気が増える
・疲れやすくなる
・何をしても楽しくない
・これまでできていたことが出来なくなる
・いくら寝ても眠い
冬季うつの原因
日本では、まだ冬季うつの研究はあまり進んでいません。
しかし、アメリカでは1979年に一人のエンジニアが自分に起きたこの症状に気づき、それから研究が進められるようになりました。
現在は国立精神衛生研究所などによって、そのメカニズムが徐々にわかってきています。
それによると、多くの動物が冬眠するように、人間も冬になると活動を抑えようとするためではないか、と考えられています。
大昔は現在と違い食物の保存技術などありませんでしたから、冬になると食べる物を手に入れるのが困難になります。
そのため、エネルギー消費を少なくすることが遺伝子に組み込まれたのではないか、というのです。
また、別の研究ではセロトニンという神経伝達物質が不足するからではないか、という説もあります。
セロトニンは心を安定させる作用があり、不足すると精神が不安定になりうつ症状や暴力的行動などが見られることがわかっています。
このセロトニンの合成に欠かせないのが、日光です。
そのため、日照時間が短くなる冬になるとセロトニンが減ってしまい、精神の安定を欠いてしまうのではないか、とも考えられているのです。
さらに、魚の摂取量が影響を及ぼしているという研究もあります。
多くの北欧諸国では冬季うつが10%以上に見られるのですが、アイスランドやアイスランド系の人は例外でした。
そこで研究したところ、彼らに伝統的に魚の摂取量が非常に多いことから、魚に多く含まれるビタミンDやDHAが大きく関係しているのではないか、という説が出ているのです。
実際、アイスランド人の年間の魚の摂取量は約90キロで、これは米国人の約24キロ、日本人の約60キロと比べて1.5~3.8倍にもなります。
もう一つ、冬季うつが男性より女性に多いことから、女性ホルモンも関係しているという意見もあります。
女性ホルモンは男性ホルモンに比べ、非常に周囲の環境や心理的なことで分泌量が左右されやすいホルモンです。
そのため気候の変化にも敏感で、冬になると精神を安定させるエストロゲンの分泌量が減ってしまうからではないか、ともいわれています。
冬季うつが髪に与える影響
冬から春にかけて、髪がよく抜ける、薄毛になった気がする、という女性が少なくありません。
これは冬季うつと関係あるのでしょうか。
動物の換毛期と同じ時期に抜け毛が増える?
専門家の間では、抜け毛が増える特定の時期があることがよく知られています。11月と3月です。
この時期は動物がこれから訪れる季節に対応するための防衛本能によって、毛が生え変わる時期です。
それと人間の抜け毛の増加が増える時期と一致するため、人間のDNAにもそれが組み込まれているのではないか、と考えられてきました。
抜け毛や細毛が増えるのは別の原因かも
しかし現在は、別の原因が示唆されています。
特に注目されているのは秋口の抜け毛で、その原因は夏の強い紫外線にあると考えられています。
紫外線が頭皮に当たると真皮層にある毛穴までダメージを受け、髪の成長を止めてしまうため、細毛や切れ毛、抜け毛などが増えると考えられています。
しかし、冬は紫外線も少なめで、しかも夏ほどアクティブに外で活動しませんから、3月頃の抜け毛は紫外線以外にもっと大きな原因があると考えられます。
それが、「冬季うつ」です。
冬季うつで頭皮や髪に起こること
・交感神経の働きで血流が悪くなる
うつ症状というのは、自律神経が乱れることで起こります。
自律神経には交感神経と副交感神経があり、1日のうちで日中は交感神経が、夕方から朝方は副交感神経が優位になることで健康が維持できるようになっています。
しかし、冬は寒さで身体がこわばり、筋肉や血管が硬くなります。
これは交感神経の働きによるもので、血流をわざと悪くして内臓に血液を集めようとするのです。
しかし、それによって頭皮に充分な血液が送られなくなるため、抜け毛や薄毛になりやすくなるのです。
・寒暖差疲労によっても自律神経が乱れる
冬季うつを引き起こすもう一つの原因に、「寒暖差疲労」があります。
自律神経には、外気温の変化に応じて体温調節を行なう役割があります。
夏は汗をかくことで体温が上がらないように、そして冬は血管を硬くすることで血液の持つ熱が逃げ出さないようにするのです。
しかし、冬は最低気温と最高気温の差が激しく、さらに室内と室外でさらに気温の差が大きくなります。
すると自律神経がフル回転して温度差に対応しようとするため、疲労してしまうのです。
これが自律神経の乱れを引き起こし、心身のバランスが崩れてうつ症状が起こりやすくなるため、抜け毛や薄毛が起こりやすくなるのです。
・自律神経が乱れると女性ホルモンのバランスも乱れる
さらに、自律神経の乱れによって女性ホルモンの分泌量も減ってしまいます。
これはこの2つが同じ脳の視床下部という部分でコントロールされているためで、片方が乱れるともう片方も影響を強く受けてしまうのです。
女性ホルモンのエストロゲンには、髪の成長を促進し健康に保つ作用があります。
そのため、分泌量が減ると髪の寿命が短くなり、成長期途中で抜けてしまうのです。
なお、髪の毛にはサイクルがあり、成長期が4~6年、そのあと退行期の2~3週間、休止期の3~4ヶ月を経て抜けていきます。
つまり、秋の終わりから冬にかけて急に寒くなった時点で退行期に入ってしまった髪の毛が3~4ヶ月後に休止期を終えて抜けてしまうため、その時期に抜け毛や薄毛が増えるのです。
冬季うつはこうして防ごう
冬場に気分が安定しなくなるのは、誰にでも起こることです。
しかし中には春になっても気分がすぐれないままで、本格的な自律神経失調症になってしまうケースもあります。
そこで、冬季うつを防ぐために、以下のことをおすすめします。
食べ物でセロトニンを増やす
前述のように、セロトニンには気分を安定させる作用があります。
セロトニンはトリプトファンというアミノ酸から作られ、トリプトファンは食事から摂ることができます。
サンマやイワシ、レバー、大豆製品、ナッツ、バナナなどに多いので、積極的に摂りましょう。
また、トリプトファンがセロトニンを合成する際に必要なビタミンB6も大切です。
これはサンマやマグロ、かつお、卵、レバー、大豆製品、バナナなどに多く含まれています。
さらに、トリプトファンを脳に届けるには糖質も必要です。
そのため、あまりに糖質制限するのは冬季うつの原因となりますから注意しましょう。
日光を浴びてビタミンDを合成する
セロトニンは日光を浴びることでも増えます。日光を浴びるとビタミンDが合成され、これがセロトニンの力を強化するのです。
近年日本人に冬季うつが増えたのは、魚の摂取量が減ったことだけでなく、紫外線対策の行き過ぎにもあるといわれています。
冬は夏に比べ紫外線がある程度少なくなるので、1日20~30分は浴びるようにしましょう。
特に朝日は生活のリズムを整える作用があり、しかもお肌への影響が少なめなので、10時までに浴びるのがおすすめです。
なお、なかなか日光を浴びられないという場合は、ビタミンDのサプリメントを取るのも良い方法です。
しっかり睡眠を取る
私たちの体内には体内時計があり、朝日とともに交感神経が、日が沈むと副交感神経が活性化するようにプログラムされています。
しかし冬は日照時間が短くなるため、体内時計が狂い時差ボケ状態になりがちです。すると自律神経のバランスも崩れ、冬季うつを引き起こしやすくなるのです。
そこで、毎日起きる時間と寝る時間を決め、できるだけそれに沿って生活するようにしましょう。
症状がきつい時は漢方薬も
冬季うつの症状が激しく出やすい場合は、漢方薬を使用すると改善しやすいといわれています。
虚弱体質には「補中益気湯」、体力が中程度以下の場合は「加味逍遙散」や「八味地黄丸」などが、様々な不快な症状を軽減します。
ただし、漢方薬は体質に合っていないと効果が出ないので、自己判断せず医師や薬剤師に相談してくださいね。
まとめ
冬季うつはそれほど珍しい症状ではありませんが、それが薄毛や抜け毛の引き金になることもあります。
何となく落ち込んでいるな、イライラしているなと感じたら、魚を食べたり日光を積極的に浴びたりして、気分を一新させましょう。