海外では多くの女性が使用しているピル。
特にヨーロッパでは約40%の女性が使用しているという調査結果があります。
しかし日本医療政策機構が2017年に発表したデータによると、日本では最も安全性の高いといわれる低用量ピルでさえ、約1%です。
そのためか、ピルにはいくつかの都市伝説が広まっているのですが、その中に「ピルで薄毛になる」「ピルで髪が増える」という正反対の噂があります。
実際には、ピルは髪の毛にはどのような作用をするのでしょうか。
ピルとは
「ピル」と聞くと避妊薬というイメージが非常に強いのですが、実際にはどういうものか、簡単に解説しましょう。
ピルの成分エストロゲンとプロゲステロンの働きとは
ピルの成分は、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)です。
エストロゲンとプロゲステロンには、それぞれ別の働きがあります。
・エストロゲン
女性らしい身体を作るホルモンで、胸を大きくしたりコラーゲンの合成を促進したりする。
また、妊娠しやすくする作用がある。
骨粗しょう症予防や血管拡張作用、善玉コレステロールの増加作用、自律神経調整作用もあり、女性の健康維持に欠かせない成分。
・プロゲステロン
妊娠を維持するために大切なホルモン。
栄養素や水分を溜め込む作用があるため、生理前2週間頃からプロゲステロンが増えると便秘やむくみが起こりやすくなる。
体温を上げたり食欲を増進したりする作用もある。
ピルには3種類ある
ピルには大きく分けて3種類あり、それぞれ働きが違います。
・低用量ピル
最も多く使用されているタイプです。
エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)両方の女性ホルモンが配合されており、生理開始日から摂取することで卵胞刺激ホルモンの分泌が抑制され、排卵しにくくなります。
避妊率は99%以上と非常に高くなっています。
また、避妊以外にもよく使用されます。
子宮内膜を整える働きがあり、生理痛や月経過多、月経前症候群(PMS)、ニキビの治療にも処方されています。
なお、低用量ピルは1シートが21錠または28錠となっています。
その成分がすべて同じ1相性ピルと、2成分の配合量が異なる2種類の薬が入っているものを2相性ピル、2種類のホルモンと1種類の偽薬が配合されている3相性ピルがあります。
また、ピル服用中は妊娠しているのと同じ状態になるため、人によってはつわりやむくみなどが起こることがあります。
・中用量ピル
低用量ピルに比べエストロゲンの量が多いのが、中用量ピルです。
現在は避妊のために使われることはあまりなく、主に女性ホルモンに関係する病気の治療薬として処方されます。
また、時には月経日をずらす目的で使われることもあります。
飲む時期によって、早めることも遅らせることも可能です。
・アフターピル
性交後に飲むピルで、プロゲステロンのみを含んだものです。
排卵を遅らせる働きがあり、妊娠防止効果があります。
エストロゲンが髪に与える作用
女性ホルモンのうちエストロゲンは、髪の毛の健康と大いに関係があります。
エストロゲンは髪の健康の維持に不可欠
女性ホルモンのエストロゲンは、女性らしい身体を作ったり妊娠に適した身体にしたりする働きがありますが、それ以外に髪の毛の寿命を伸ばし健康に保つ作用があります。
男性の髪の寿命が2~5年なのに比べ女性は4~6年と長いのは、そのためです。
女性ホルモンは一生にティースプーン1杯程度しか分泌されないといわれ、ほんの少量で大きな変化をもたらします。
そのため、ピルを服用するとエストロゲンが増え、髪の毛が抜けにくくなるのです。
つまり、ピルの服用は薄毛改善効果があるといえます。
妊娠中抜け毛が減るのはエストロゲンによる作用
あまり気づかないかもしれませんが、妊娠中は抜け毛が減ります。
これは、妊娠すると母乳の準備をするために、エストロゲンの量が飛躍的に増えるからです。
最も多い時には妊娠前と比べ100倍も血中に含まれることがわかっています。
その結果、髪の毛の寿命が延びて、本来であれば抜けるべき時期の髪が抜けなくなるのです。
ピルの服用で抜け毛が増えて薄毛になる?
これまで説明したように、ピルには抜け毛や薄毛を食い止める作用があります。
しかし、それならなぜ「ピルで抜け毛が増える」という都市伝説があるのでしょうか。
ピルの服用を止めると一気に抜け毛が増える
「ピルで抜け毛が増える」は、正確には「ピルを止めると抜け毛が増える」でしょう。
というのは、女性ホルモンのエストロゲンと髪の寿命の関係はすでに証明されており、エストロゲンの量が増えて髪が抜けることはあり得ないからです。
もしピル服用中に抜け毛が増えたとしたら、別の原因があるはずです。
さて、なぜピルを止めると抜け毛が増えるのでしょうか
これは、実際には「抜けるべき寿命の髪が抜けた」だけで、心配する必要はありません。
エストロゲンの働きで寿命が一時的に伸びただけで、本来はすでに抜け落ちているべき髪なのです。
ピルの服用を止めると、出産後と同じ状態になります。
妊娠中に増えたエストロゲンが、出産後1週間以内に妊娠前の量に戻るのと同じです。
すると、エストロゲンの作用によって寿命が延びていた髪が一気に寿命を迎えます。
髪の毛は成長期の後に2~3週間の退行期、3ヶ月程度の休止期を経て抜けるため、ピルを止めて3ヶ月頃からどんどん抜けるのです。
髪の毛は、1日50~100本抜けるのが普通といわれています。
そのため、ピルを服用していた間が1年とすれば、20,000本前後の髪が抜ける計算になります。
もちろん、この間に新しい髪もたくさん生まれていますから、地肌が透けてハゲてしまうのでは、と心配する必要はないのです。
ピルの種類によっては服用中抜け毛が増えることも
ただし、ある種のピルに限って、抜け毛が増えることがあります。
低用量ピルのうち、2相性と呼ばれるものに配合されているプロゲステロン薬のレボノルゲストレルは、男性ホルモンの働きを活性化する作用があります。
男性ホルモンの一種DHTには抜け毛を促進する作用があるため、まれに服用中抜け毛が増えることがあるのです。
しかしこの場合は、薬を変えれば抜け毛は止まります。
ピルを止めても抜け毛が減らない…その原因は
このように、一般的にはピルを止めれば抜け毛は減ります。
しかし中にはピルを止めて半年以上経っても抜け毛が減らない、という人がいます。
その原因には以下のことが考えられます。
女性ホルモンの分泌量が減る年代に来ている
女性ホルモンの分泌量は30歳前後がピークで、それ以降徐々に減っていき、45歳前後から一気に減少します。
そのため、年齢が高いほど性ホルモンの残量が少なくなっているため、髪の毛の寿命が短くなり、抜けやすくなったり細く弱い髪の毛が増えたりするのです。
ストレスも大きな原因
女性は男性に比べると環境の変化が大きいためストレスが溜まりやすく、中には若くても女性ホルモンの分泌量が減ってしまうことがあります。
女性ホルモンは脳の視床下部という部分が分泌指令を出しているのですが、この部分は自律神経をコントロールする場所でもあります。
そのため、ストレスが溜まると自律神経が乱れ、その影響が女性ホルモンの分泌にも影響を及ぼしてしまうのです。
ダイエットのしすぎで女性ホルモンが作られなくなる
女性ホルモンの材料となるのはコレステロール、つまり脂質です。
そのため、無理なダイエットで脂質を制限しすぎると、女性ホルモンが作られなくなってしまうのです。
よく女性アスリートが生理が止まったという話を聞きますが、これも脂肪が少なすぎるために起こります。
しかも、ホルモンを作る機能は脳の指令によって維持されており、一度女性ホルモンを分泌させる指令を止めてしまうと再度指令を出すまでに時間がかかるため、その間にどんどん髪が抜けてしまうことがあるのです。
まとめ
ピルには育毛を促進し、抜け毛や薄毛を防ぐ作用があります。
しかし、残念ながら育毛のために処方してもらうのは難しく、しかも体質に合わないものを服用すると副作用が出やすくなります。
また、ピルの服用によって、本来の女性ホルモン分泌機能が低下してしまうこともあります。
ピルを無理に手に入れるより、日頃の習慣を見直して薄毛を食い止めましょう。